IoT 関連のセミナーや経営相談では、下記のような話題があがります。
- ・世間では、IoT という言葉がはやっているらしいけど、うちの会社にどう必要なの?
- ・IoT って何? 何がもうかるの?
- ・IoT の導入? うちの会社はまだまだ他にやることがいっぱいあるよ。
確かに、IoT は第4次産業革命と言われていますが、その変革の本質を理解しなければ、IoT に対して懐疑的な気持ちになるのもよく分かります。なにしろ、まだ IoT は創成期です。
事例が少なく、実証実験(POC)フェーズのものが多いのも事実です。
企業の収益性を語る上で、経営基本戦略はとても重要です。
一般的に収益性の高い企業は、ポーターの3つの基本戦略のどれかに該当しています。
図1. ポーターの3つの基本戦略
日本成長戦略研究所が運営している下記のwebサイトより引用
ご存じの方も多いと思いますが、マイケル・ポーター氏は「競争の戦略」「競争優位の戦略」等の著書がとても有名で、現在でも通用するバイブル的な経営書籍です。そして、近年「IoT 時代の競争戦略」と題した論文を共著で発表しています。「IoT 時代の」という枕詞があるぐらいですから、マイケル・ポーター氏もIoT の衝撃の大きさを認めていることが伺えます。
この論文では、IoT の特性や可能性を「接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ」として、下の図のように説明しています。
図2. 接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ
- モニタリング
センサーと外部からのデータを使って、製品の状態、外部環境、製品の稼働、利用状況のモニタリングを実現します。家庭用のエアコンに例えると、部屋の温度測定、室外機の温度測定、正常稼働表示、故障表示、等です。
- 制御
製品機器あるいはクラウド上の遠隔コマンドやアルゴリズムによって製品を制御することができます。 家庭用のエアコンに例えると、部屋の温度を26度に設定した自動温度制御や、タイマーにより自動電源のオン・オフができます。
- 最適化
モニタリング機能と制御機能を組み合わせると、多くの方法による製品性能の最適化が可能になります。家庭用のエアコンに例えると、人感センサーを持つ機能です。部屋でなく人を対象にした冷暖房になりますので、人の動きに合わせて風向や風量を調整することができます。人が居なくなると自動的に電源オフになるため、省電力化という効果が得られます。さらに、フィルターの状態をモニタリングすることで、クリーニング時期や故障をお知らせする予防保全にも役立ちます。
- 自律性
モニタリング、制御、最適化の各機能が結びつくと、接続機能を持つスマート製品に、高い自律性が備わります。家庭用のエアコンに例えると、日々の利用状況から学習をして冷暖房をかけることが可能です。部屋の形状に合わせるだけでなく、自動的に顔認識することもできるため、家族それぞれの好みに合わせて設定調整もできます。
このようにIoT の可能性には4つの段階があり、それぞれの段階において実現できる製品機能、サービス、ビジネスモデル等が異なります。これらの特性や可能性を理解し、自社の製品・サービスの付加価値向上や、業務オペレーションの改善に対し、うまく連携できないと、IoTの導入効果を得ることができません。ましてや、IoT でもうけることもできません。競争優位なポジションを獲得するためには、IoT が持つ4つの段階「モニタリング」、「制御」、「最適化」、「自律化」のうち、どの段階を目標とするのか、経営的な視点で判断しなければならないのです。
エアコンの例にあるように、IoTにより製品やサービスが便利になります。さらに、製品やサービスのサプライチェーンでも革命を起こします。そのため、既存のビジネスモデルの向上だけではなく、新規ビジネスモデルの創出チャンスが広がっていると言われています。一般的なサプライチェーンとして、
- もの(商品)の流れ
- 情報(注文)の流れ
があります。
図3. サプライチェーン
上の図のように、もの(商品)の流れは、川上(製造側)から川下(消費者)への方向となります。一方、情報(注文)の流れは、川下から川上の方向です。現在は、市場が成熟し、事業環境の変化が激しいため、何が売れるかは誰も分かりません。実際問題として、各業界や業種の経営者さまは、この「何が売れるか分からない」という点が一番の悩みとなっています。そのため、サプライチェーンにある川下からの情報(注文)の流れがマーケティングにとって最も重要視されています。この情報を制する企業こそが競争優位の企業と言っても過言ではありません。
コンビニ業界が流通業のトップに躍進できたのも、POS データという情報の恩恵を受けて最適な商品管理ができているからです。それと同様に、製造業も生産計画、在庫管理、次期商品企画等を実施する上で、顧客情報やニーズ等のPOSデータから得られるマーケティング情報を重視しなければなりません。しかしながら、サプライチェーンの構造上、製造業は最終消費者との接点が少ないので、どうしても製造業自身のデータではなく、店舗や問屋が管理する POSデータに頼る傾向にあります。それゆえ、それらが持つPOSデータが、貴重なマーケティング情報として利用され、その情報を元に物流や商流を管理するサプライチェーンマネジメントが成立しています。その結果、現在のビジネスモデルでは、顧客情報を持つ店舗や卸が製造業よりも優位な立場となっています。
図4. 現在のサプライチェーン
ところが、IoT 時代になりますと、サプライチェーンにある情報の流れが変わります。先ほどのIoT の特性や可能性から分かるように、最終顧客が使用している製品の状態や利用状況を、川上側の製造業がデータとしてリアルタイムに取得できるようになります。
従来は、商品を売り切る販売方法が主でしたので、顧客との関係性は販売時のみ発生していましたが、IoT 時代では、IoTの特性により購入後も顧客との関係性を維持できます。また、その情報の流れは、IoT の仕組みを導入した製造業へと移転していきます。そのため、IoT から創出されるデータは、現在のPOSデータよりも精度の高いマーケティング情報となります。それにより製造業はさらに、精度の高い生産管理、在庫管理、商品企画等に期待できます。従来の製造業は、マーケティング情報としてPOSデータ一辺倒でしたが、IoT の登場により情報の流れが変化していきます。現行のサプライチェーンの優劣関係が逆転する可能性があります。これが第4次産業革命の引き金になります。
図5. IoT導入におけるサプライチェーン
先ほども触れたように、情報を制する企業が競争優位の企業です。つまり、IoT のデータを制する企業こそが、今後の競争優位企業となります。冒頭でも述べたようにポーターの3つの基本戦略を経営戦略として抑えておくことが大切です。
まとめ
- 1.IoT の特性や可能性には「モニタリング」、「制御」、「最適化」、「自律化」の4つ段階があり、それを生かした経営戦略を行う。
2. IoT から創出されるデータを制した企業こそが、競争優位な企
業となりえるため、データを収集する企業を目指す。
3. ポーターの3つの基本戦略はIoT時代においても重要となるので、実行する。
なお、IoT 検定を受検する方は、「接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ」は試験範囲なので、特にIoTの特性についてはマークしておきましょう。