米国のウェブ開発者と仕事をしていて感じるのは、これだけグローバル化が進んだ今でも、米国のウェブ技術は日本よりもいつも先に行っているということです。中でもお金を稼ぎだすECサイト周りのテクノロジーでは、特に後れを取っているかもしれません。これから日本のECがグローバルなマーケットにおいても売り上げを上げていくためには、今までと違ったアプローチが不可欠でしょう。国際競争力のあるウェブづくりとはどういうものなのか、その一例をご紹介します。
- 連載「売り上げ向上の即効薬『電光石火のウェブサイト』」のほかの記事はこちら
第1回:この記事 - 第2回:Solrパワーの活用
- 第3回:Cacheを知ろう
- 第4回:ダイナミックページアッセンブリーの威力がすごい
- 第5回:Solrをインストールしてみよう
Ⅰ.はじめに
- 不景気な時代は何事にもスピードアップが求められる 不景気だと、景気が良い時と同じだけ働いていたら収入が下がってしまいます。景気が良い時と同じ収入が欲しければより多く働かねばなりません。当たり前のようですが、景気が悪いとはそういうことです。しかしいくら多く働きたくても1日24時間というのは変わりません、だからスピードアップが求められるのです。例えば、バブルの頃はレンズの小さなメガネが流行っていましたが、不景気な昨今はレンズが大きくなっています。横のものを見る時にレンズが小さいと顔を動かさないと見られませんが、レンズが大きいと眼球だけ動かすだけで見ることができるからです。人は無意識にスピードアップを求めていて、ウェブサイト閲覧についても例外ではありません。
- 自社サイトは、実際よりも3割早く感じてしまう それでは、自社あるいはクライアントのサイトのスピードはどうなのでしょうか。何度も閲覧して見慣れている場合、次に何が表示されるか知っているので、待っている時間は案外長く感じないものです。そうした感覚的なこと以外にも、キャッシュデータを見ていることが多いということもあって、日々見ている自社サイトのスピード感は、その分を割り引いて考慮する必要があります。通常と異なる場所、異なるブラウザで試してみるとよりユーザーに近い感覚をつかむことができるでしょう。
Ⅱ.米国大手ネット企業が発表している、サイトスピードとコンバージョン率の関係
サイトスピードとコンバージョン率に密接な相関関係があることは米ネット企業各社が公式に発表している事実です。米国ECサイトでは売り上げ向上に効果のあるUX(ユーザーエクスペリエンス)改善策としてサイトスピードを上げることが最大の関心事になっていると言っても過言ではありません。
・ネット企業各社が発表したサイトスピードとパフォーマンスの関係
ebay | 表示速度が10%速くなると売り上げが1%増加、35%だと5%増加 |
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Amazon | 表示速度が0.1秒向上するごとに、売り上げが1%増加(Walmartも同様) |
Shopzilla | 平均6秒だったページ表示時間を1.2秒に縮めたところページビューが25%、売り上げが12%増加 |
Yahoo | 表示速度が0.4秒向上するごとに、アクセスが9%増加 |
Mozilla | ページ表示時間を2.2秒改善したところ、年間でFirefoxのダウンロードが6千万回増加。 |
もし、Amazonの平均ページ表示時間が1秒遅くなると、16億円も売り上げが落ちてしまうことになります。Amazonのような大規模ECサイトだけでなく、中小ECサイト、あるいは資料請求などを目的にしたサイトでも効果を上げるためにサイトスピードは最優先で改善しなければならないポイントなのです。
出典:ebay tech blog
Ⅲ.米国ECサイトで常識になりつつある、劇的にサイトスピードを向上する3種の神器
- キャッシュの利用 80対20の法則というのをご存じの方もいらっしゃると思います。全てのデータベーステーブルの20%を照会するために80%の時間を要するという法則です。大きなデータベースをキャッシュ化するのは不可能ですが、この20%のデータをキャッシュ化することで、かなりの高速化が実現できるということになります。
- Apache Solr(以下Solr) Solrは、フリーの検索エンジンです。優秀な図書館司書に例えられるSolrは、大きな図書館において、求める図書がどのフロア、通路、本棚のどの棚のどこにあるか知っています。しかも1000人の読者が同時に本を借りたいと申し出ても即座に応えることができるのです。ウェブサイト高速化のためにSolrを検索だけでなくページ遷移にも使用します。
http://lucene.apache.org/solr/
- ダイナミックページアセンブリテクノロジー 電光石火のウェブサイト実現においてコアとなる技術です。Ajaxを超えた動的ページ組み立て技術と言えます。従来の方法では、ブラウザが要求するとサーバーはそのページのHTMLデータの全体を送り返していましたが、この技術では、ページデータを全て読み込むのではなく、必要な箇所を部分的に読み込むことで余分なデータ転送を削減します。 そしてこれら3種の神器を活かしきるための、プログラム言語としてはjavaを用います。
Javaを選択する理由として、次のようなことが挙げられます。
- クロスプラットフォーム対応なので、Linux, CentOS, Windows, Macなど異なる言語によるプロジェクトに対応しているということがあります。プロジェクト間でソフトウェア資産を活かせるので開発の効率化という点で極めて重要です。それに対し.netやPHPは極めて限定されたプラットフォームということになります。
- オープンソースであるので、豊富なフレームワークやライブラリがあり、開発途中で必要とされるものはほとんどカバーされているでしょう。そしてそれらの多くが大規模、高負荷のプロジェクトやウェブサイトを前提に設計されています。それらが無償で入手できることで開発効率が上がり、同時に開発リスクを軽減することができるのです。
- javaはメンテナンスという点でも、他の言語に比べて容易なのでメンテナンスのコストを安く抑えることができます。
- 世界的に見れば、Java開発者は他の言語に比べ多く、人材の確保も容易なため、優秀な技術者を安価で雇うことが可能です。
- Javaの開発者フォーラムは最も大きく、したがってわからないことはすぐにエキスパートに(無料で!)教えてもらうことができます
Ⅳ.Google Page Speed Insights によるスピード改善
3種の神器が幹だとすると、枝葉に相当する対策も行っておきましょう。Googleが開発者向けに用意しているGoogle DevelopersのPage Speed InsightsはPCや携帯端末向けのページスピードを計測して対策方法を示唆したレポートを出してくれるサービスです。フォームで分析したいサイトのURLを送信すると、スコアと改善点をリストアップしてくれます。指摘された項目を1つ1つクリアして100点満点になるようにしましょう。ページスピードが改善されればSEOスコアも上がります。 Google Page Speed Insights
Ⅴ.高スペックのサーバーと高速回線のバックボーン
ソフトウェアによる高速化に加えて、もちろんハードウェアも考慮すべきです。ユーザーのリクエストに不足なく応えられるサーバーのスペックと安定かつ高速なバックボーンが必要でしょう。その点、クラウドサービスなら、必要なだけのリソースを利用することができるので、無駄なくハイスペックなサーバー環境を利用できます。
次回から、サイトスピードを上げるための3種の神器についてもう少し掘り下げて解説します。